ベクトルと行列の基本

ベクトルと行列の基本

この記事では、「スカラー」「ベクトル」「行列」について基礎的な概念を解説します。これらは数学やプログラミング、データ分析など、多くの分野で使用される重要な概念です。


スカラー(Scalar)

スカラーとは、1つの値(数値)で表されるものです。
スカラーは大きさ(値)のみを持ち、方向の概念はありません。


  • これらは全てスカラーの例であり、それぞれ単独の数値を表します。

  x, y, z, M, N 

  • 特徴:
    • スカラーは、日常的な数値のように単純なもの。
    • 実世界の例:温度(25^{\circ}C)、質量(5\ kg)、時間(10\ s)など。

ベクトル(Vector)

ベクトルは、複数の要素を持つ値の集まり(1次元配列)を表します。
ベクトルは「大きさ」と「方向」を持ち、数学では通常、縦ベクトル(列ベクトル)または横ベクトル(行ベクトル)として表現されます。

縦ベクトルの例:

     $$ X = \begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{bmatrix} $$

一般的なベクトルの表記:

     $$ Y = \begin{bmatrix} y_1 \\ y_2 \\ \vdots \\ y_n \end{bmatrix} $$

特徴:

  • ベクトルの要素数(次元)は、データや問題の内容に応じて異なります。
  • 実世界の例:
    • 座標(例:2次元空間では (x, y)、3次元空間では (x, y, z))。
    • 物理の速度ベクトル(例:速度の大きさと方向を同時に表す)。

行列(Matrix)

行列は、スカラーやベクトルを拡張したもので、行と列を持つ2次元の配列です。
行列は、複数のベクトルをまとめて表現する場合や、複雑なデータや計算を扱う際に使用されます。

行列の例:

     $$ X = \begin{bmatrix} x_{11} & x_{12} \\ x_{21} & x_{22} \\ x_{31} & x_{32} \end{bmatrix} $$

特徴:

  • 行列は「行」と「列」の組み合わせから成り、行列のサイズ(次元)は「行数 × 列数」で表されます。
    • 例:上記の行列 X3 \times 2 のサイズを持つ行列です。
  • 実世界の例:
    • データ表(行がサンプル、列が特徴量)。
    • コンピュータビジョンでの画像データ(ピクセル値の行列)。

図の役割と意義

以下の図では、「スカラー」「ベクトル」「行列」を「変数か定数か」「単純か複雑か」の観点で分類しています。

  • 横軸:値の種類
    • 小(変数)⇔大(定数)
      • 「小」は可変的な値(例:変数)を意味します。
      • 「大」は固定された値(例:定数)を意味します。
  • 縦軸:表現の形
    • 細(スカラー)⇔太(ベクトル・行列)
      • 「細」は単純な形(スカラー:1つの値)を意味します。
      • 「太」は複雑な形(ベクトル・行列)を意味します。

スカラー、ベクトル、行列の分類表



スカラー、ベクトル、行列の関係性について

これらは次のような階層的な関係にあります

これが「スカラー」「ベクトル」「行列」の基本的な考え方です。


記号「⊂」の意味と式の解釈

この数式
「スカラー ⊂ ベクトル ⊂ 行列」
には、集合の包含関係を表す記号 「⊂」(部分集合) が使われています。


「⊂」の意味


数学では、記号「⊂」は 「部分集合(proper subset)」 を意味します。
A ⊂ B なら、「A は B の一部であるが、A と B は完全には一致しない」という意味になります。


この式の意味

この数式
 \text{スカラー} \subset \text{ベクトル} \subset \text{行列}
は、スカラー、ベクトル、行列の関係を階層的に表現 しています。

  1. スカラーはベクトルの一部である(スカラー ⊂ ベクトル)
    • スカラー(単一の数値)は、次元が 1 のベクトルとみなすことができます。
    • 例えば、スカラー x は、1次元のベクトル  \mathbf{x} = \begin{bmatrix} x \end{bmatrix} として表現できます。
  2. ベクトルは行列の一部である(ベクトル ⊂ 行列)
    • ベクトル(1列または1行の数値の集合)は、行列の特殊な場合とみなせます。
    • 例えば、ベクトル  \mathbf{x} = \begin{bmatrix} x_1 \ x_2 \ x_3 \end{bmatrix} は、1列の行列(n×1 の行列) として扱えます。

まとめ

この式が示しているのは、

  • スカラーはベクトルの特別な場合である(1要素のベクトルとも考えられる)。
  • ベクトルは行列の特別な場合である(1行または1列の行列とも考えられる)。

つまり、
スカラー ⊂ ベクトル ⊂ 行列 という関係は、スカラーが最も単純なデータ形式であり、そこからベクトル、行列とデータ構造が拡張されていくことを示しています。


補足

もし厳密な数学記号を使う場合、「⊂」ではなく「⊆」(部分集合の包含記号)を使うこともあります。

  • 「⊂」 は「真部分集合(proper subset)」で、「A ⊂ B」なら A ≠ B(AはBの完全な一部)
  • 「⊆」 は「部分集合(subset)」で、「A ⊆ B」なら A = B も許される

ここでは、「スカラーはベクトルの特別な場合であり、完全に含まれる」と解釈しているため「⊂」を使用していますが、「⊆」でも大きな意味の違いはありません。



次はこれらを使用して具体例を記事にします。

ベクトルと行列の基本(具体例)